1.空室時代の到来
不動産調査会社タスの調べによると、首都圏の賃貸アパートの空室率は2015年半ばから上がり始め、神奈川県では35%超、千葉県、東京23区も34%前後へ上昇しています。すでに3室に1室が空室という状況です。
この空室時代の到来の理由としては大きく3つあげられます。
1つ目は、国内の人口減少に伴う世帯数の減少です。もちろん東京では、単身世帯の影響で、総世帯数はまだ増えていますが、ファミリー世帯は世帯数も減少しています。なので持っている物件の種類によっては大きく差が出てきます。
また、世帯数も今はまだ増加していますが、国立社会保障・人口問題研究所によると、2020年から減少に転じると推計されています。
2つ目の理由は新築の着工数です。
2015年1月の相続税の増税の影響で、アパートの建築数が増えました。相続財産の評価は、現金より、土地・建物に換えたほうが3割ほど低くなるうえに、賃貸に出せば、そこからさらに2〜3割下げられるというからくりがあるため、節税対策としてアパートの着工数が増えました。結果、2015年の貸家着工数は前年比4.6%増の37.8万戸となりました。もちろん節税対策として一時的に増え、2016年以降いったんは落ち着くことが見こせますが、それでも新築の着工数が減る理由にはなりません。業界として、新築物件を作ることで成り立っている会社が多くあるためです。
3つ目の理由としては建物の長寿命化です。
科学が進歩し、物件の寿命というのは延びています。特に鉄筋コンクリート造(RC造)の物件は100年の耐久性を持つものも出てきました。物件が持つのであれば、お金をかけて、取り壊して新しく建てるよりも所持し続けようと考えるのは一般的な考え方です。
人口減少により、住む人が減りつつあるということと、新築の着工数と建物の長寿命化で物件数が増えているということ、この3つの要素が合わさって、3室に1室は空室という大空室時代が到来しています。
2.具体的な空室対策とは
賃貸経営をする大家さんとしてどんな対策がとれるでしょうか。
手間もお金も少なく、簡単にできるものから、お金も時間もかかるものもあげていきます。安いからいい、高いからいいというのではなく、持っている物件の状態によって一番適した空室対策をおすすめします。
①共用部、専有部クリーニング
まずは、仲介会社さんに内覧している人がいるのか確認してみましょう。
内覧がある、けれど決まらないという場合は考えられるのは、写真と実際の乖離か共用部が汚いかということです。
繁忙期はとくに管理会社さんも忙しいので、おろそかになってしまうこともあるかもしれませんが、気になったときは一度覗いてみて自分の目でも確かめてみましょう。
ちょっとしたポイントとして挙げられるのが、
・郵便受けにチラシはたまっていないか
・ごみ捨て場からごみはあふれていないか、もしくは指定日以外にごみが捨てられていないか
・自転車が指定以外の位置に停められていないか
・室内が定期的に換気されていて匂いがこもっていないか
どこまでの管理を行うかは、金額にもよると思いますが、
基本的に、管理物件をきれいに保つということは大切な仕事です。さらに、相談してもやってもらえないのは、管理を任せておくのは不安です。
きちんと物件を管理してくれる会社に変えることも検討しましょう。
また、写真との乖離という点では、昔のきれいな時の写真を載せていたりする場合があります。せっかく内覧に来てもらっても、入居が決まらないのでは意味がないので、マイソクやネットに載せる写真は現状のものを使いましょう。
ただ、きれいな内装でないと、なかなか入居希望者の目にとまらないのは事実なので、少しだけ工夫をしてみてください。
例えば、お部屋をちょっとした小物で飾るのもポイントです。
ポプリを買ってきて玄関に飾ったり、3点ユニットのカーテンをおしゃれなものを選んだり、部屋におしゃれな照明を飾ったりというのも自分でできる範囲かと思います。
今は100円ショップやIKEAでおしゃれな小物や家具が安く売っています。
あまり大きなものだと、入居者さんにとって邪魔になる可能性もありますが、ちょっとした小物で、壊れても困らないような金額のものであれば、大家さんで用意するのも一つの手です。
また、原状回復のついでに1面だけアクセントクロスにできないか、管理会社さんに相談してみるのもよいかもしれません。1面だけ色が違うと部屋の雰囲気を大きく変えることができ、写真映えがあがります。
また、小物の設置やアクセントクロスを張る前には管理会社さんに相談して、設置後に写真を撮ってもらえないか相談しましょう。
入居者さんが付きやすくなるので、管理会社さんも協力的に動いてくれると思います。
②賃料ダウン&フリーレント
2つ目の対策として挙げられるのが、家賃を下げたり、フリーレント期間を設けて貸し出すことです。年数が経つにつれ、物件が古くなっていく内部の環境変化と同時に、周りに新築ができたり、はたまた学校が移転するなど、外部の環境も変化していきます。
こうなるとずっと同じ家賃帯で貸していくのはなかなか難しいです。
もちろん収入が減ってしまうので、決断は難しいですが、一度試してみるのも手です。
ではどれぐらい家賃を下げるかについては管理会社さんからの意見を参考にするのと同時に自分で調べてみて、決定するのがおすすめです。
いまはネットで賃貸物件のポータルサイト(入居者募集物件を集めたサイト)があります。
有名なのではSUUMOやHOME’sがあります。
それらのサイトを使って、自分の物件と似たような条件の物件をいくつか見つけ、家賃帯について自分でも目星をつけてみましょう。
その際に1つ注意点があります。
ポータルサイトに載っているのは、「今空室の物件」だということです。おおよその家賃の目星はつけられますが、その物件がその家賃でどれぐらい空きがあるのかはサイトからはわかりません。なので、同じや賃貸帯で貸しても同じように空室になる可能性があります。そのためご自身で調べられた家賃はあくまで平均値や上限として考え、自分が目星をつけたや賃貸よりも下がる可能性があることを頭に入れながら、管理会社さんとど簿ぐらいの家賃に設定するか決めましょう。
③インターネットフリー
3つ目はフリーのインターネットの設置です。特に単身者向けの設備としては賃貸物件では非常に人気があります。全国賃貸住宅新聞の2015年の設備ランキングでは単身者向けの人気設備として1位を獲得しています。
また、導入を無料で行っている業者も多くあります。
もちろん月々のネット代金は大家さんの負担にはなりますが、その分家賃アップなども期待できます。
ただ、2点注意があります。
1点目は現在住んでいる入居者さんにインターネット無料にしたから家賃をあげます、とい交渉が難しいことです。
2点目は導入する回線の容量です。特に世帯数の多い物件になると回線は共有のものを使うことになるので、ネットが重くなり、使用者にとって使いづらくなり、クレームの元となります。単身者は平日の昼間部屋にいないことが多く、必然的に使用は夜や休日に偏ってきます。自分の家に回線を導入する考え方よりも、同時に世帯数の8割~9割が使うことを想定してみて下さい。
インターネット無料とうたって家賃をあげた場合、ターゲットは当然ネットをよく使う人です。それで選んだ入居者さんからすると、ネットが重くて使えないというのは不満のもとになりますし、物件によっては自分で回線を引きたくても引けない場合があります。
導入する際には、インターネットの回線の容量とあげたい家賃をよく比較してみてください。安いプランに加入したとしても、それを事前に入居希望者に説明してくれるように仲介会社さんや管理会社さんに伝えておくこと、また安いプランから入居者さんがお金を払って回線の速度をあげられるようなものを選んでおくとクレームにはなりづらいです。
④ペット可、楽器可、シェアハウス可
4つ目の空室対策は、部屋の募集条件を変えてしまうことです。ただし、この時に注意が必要なのは、同じマンションやアパートに住むほかの入居者さんにも影響を与えてしまうことです。区分所有の場合であれば、管理組合の規定を確認しましょう。
また1棟所有の場合は、管理会社に確認するとともに、住環境が変わるので同じ物件に住む人にも確認が必要です。
また、ペット可物件や楽器可物件は内装についても検討が必要です。
必ずしも変える必要はありませんが、ペットが汚す可能性が高いので床をペット対応しているフローリングなどに変え、腰壁を用意するなどして、ペットが粗相をしたり、壁に足をかけたり、爪をといだりして傷つくのをある程度予防できるほうがよいです。
また、消臭機能のある壁材もあるので、玄関などに配置できるとなおよいです。
こちらは予算とどういったペットを可とするのか、退去後の汚れをどの程度許容するのかの兼ね合いで決めたほうが良いです。
一般的にはペット可となると小型犬や猫など1頭がOKとなっている場合が多いですが、多頭飼いができるとなお差別化できる物件となります。
また楽器可の物件にする場合は防音への配慮のある内装を検討したほうが良いです。
防音機能のついた壁材を上から張ることも可能ですので、退去後、原状回復の予算に上乗せして防音機能の相談をしてみてください。
シェアハウス可の物件に関しても、管理組合に規定はなくとも同じ物件の入居者の方に確認をとることをお勧めします。
友達数人で住む場合は賑やかになることもありますし、友達を呼ぶことも増えます。
そういったことを嫌がる入居者さんもいらっしゃるので、事前に確認するようにしましょう。
⑤リノベーション
5点目はリノベーションです。立地や築年数から部分的な設備変更では入居者にとって魅力的な物件にならない場合があります。
また前の入居者が長く住み、原状回復をするにしてもかなりのお金がかかることも考えられます。
原状回復にお金をかけるのであれば、予算を増やし、入居者が付くようにリノベーションをすることも提案の一つです。
また、間取りが古くなかなか入居者が付かない物件もあります。2DKや3DKだとファミリー世帯が減少している上に、1世帯当たりの子供の数も減少しているため、同じ平米数であれば、部屋数がたくさんある部屋よりも1部屋当たりの部屋が広い部屋のほうがいいと考える入居者のほうが多いです。
物件を探している人は、ネットで物件を探す時や管理会社に物件の希望条件を伝えるときに、必ず間取りを条件に挙げると思いますが、古い間取りのままでは選択肢から外れてしまいます。
リノベーションであれば間取りはある多少の制約があるものの、自由に変更がききます。
また水回りの設備も交換することで、給水管や給湯管などの配管も交換することができます。特に長く入居者が入っていない物件で、配管が古くさびている場合には、水を通した時に、配管が破れてしまう可能性も潜んでいます。
築30-40年の物件でリノベーションをするのであれば、そのあとの漏水などの対策も考えて、見えない部分もきれいにする必要があることも念頭に置いておいてください。
その上で賃貸で貸し出すのであれば、管理会社からアドバイスももらいましょう。
追い炊きや浴室乾燥などのユニットバスの設備やキッチンを対面式にするのかどうか、部屋の数はいくつがいいのかなどを聞き方針を決め、内装の色などのデザインの部分はリノベーションを施工する会社にアドバイスをもらいましょう。
リノベーション業者を決定する決め手としては、リノベーションを行ったことがあるかどうかは一つ考えに入れておいて下さい。普段、原状回復を中心に行っている会社だと、元の状態に戻すのは得意でもデザインが苦手な場合があります。
事前にプランや使用部材を出してもらい、業者の話を聞いて、どこの会社にするのかを決定しましょう。
また、リノベーションで注意したい点として予算と期間の2つがあげられます。
実際に自分が住むためのリノベーションと違い、賃貸であれば投資回収を考えるので、金額を安くしたいと考えるのは当然ですが、安い予算であると充分なリノベーションができない可能性があります。
自分の予算とリノベーションとして必要なことを希望順に並べて、予算内でできる内容と予算外でできる内容を聞いて、どこまでやるのかを判断しましょう。
期間の点で注意したいのは、検討期間から完工までその期間は空室になる点です。
お金のかかることなので熟考したいというのはもちろんありますが、収入の観点から考えるといかに早く着工して完工するかを考えるのも大事です。
そのため、事前に管理会社と施工業者とスケジュールを決め、また契約をする時までに決めなければならないこと、契約後にでも決められることを聞き、判断する順番を決めておくこともスムーズにリノベーションが進められるポイントの1つです。
3.最後に
今まで挙げた空室対策を下記にまとめました。
持っている物件の専有部の設備や共用部の状況、また物件の建っている周囲の環境から、空室対策を検討する際の参考にしてみて下さい。
①共用部、専有部クリーニング
メリット:低予算、手間が少ない
デメリット:劇的に改善するかは物件の状況に大きくよる
対策が適している物件:内覧がある物件、立地がいい物件
②賃料ダウン&フリーレント
メリット: 管理会社と確認するだけでできる
デメリット: 収入が減少する。
対策が適している物件:周辺相場より家賃が高い物件、共用部・専有部含めて設備が悪くない物件
③インターネットフリー
メリット: 単身者向けに人気の設備
デメリット: ほぼ満室で運営している場合にはほかの手を考えたほうが費用対効果が合う可能性が高い。共用の設備なので区分所有の場合は所有者全体で足並みをそろえる必要がある。
対策が適している物件:単身物件
④ペット可、楽器可、シェアハウス可
メリット: 家賃が上がる、差別化になる
デメリット: 周囲の入居者さんへの説明や管理規約の確認が必要
対策が適している物件:大学の近くにある、ペットの散歩コースが近くにある
⑤リノベーション
メリット: 区分、1棟所有にかかわらずできる。人気の間取りに変えられる
デメリット:費用がかかる
対策が適している物件:前の入居者が長く住んでいて原状回復に費用がかかる、間取りの古いファミリータイプの物件、3点ユニットの物件
自分一人ではできないことも多くあります。賃貸物件の経営者として、管理会社をアドバイザーとして検討してみて下さい。1つの対策だけでうまくいくとは限りません。第二第三の矢も検討しつつ、まずはどれから着手するのか、その次はどうしていくのかも合わせて相談して、取り入れていってください。