これから10年後、(空室増加などにより)家賃収入は半分になるーーー。賃貸経営は、厳しい時代を迎えると言われています。このような中で、空室対策として、リノベーションという施工方法が求められています。このリノベーション物件に対して、なんと「3人に2人」は、魅力的であると思っているのです。
「日本一不動産を買う男」が警告
年間7000戸の住宅を売買し、「日本一不動産を買う男」の異名を持つという須田忠雄さん(株式会社やすらぎ社長)は、将来的に賃貸経営が厳しくなると警告しています。
須田さんの書籍「アパート経営はするな!」(大空出版)の内容紹介します。そこでは、①「入居率の低下」、②「家賃収入の減少」、③「アパートローンの返済に窮してしまう」という3点が、将来的に同時進行で起こると言及しています。
特に着目すべきは、「③」です。須田さんは、下記のように述べています。
・銀行から借りたアパートローンの返済額は変わらない
・所有する間の税金(固定資産税など)も変わらない
・これらの税は所有面積に応じて税額が決まる
・この税金は、空室になったからといって減額されるわけではない
・つまり、空室になろうが所有物件の全室分の税金を払い続けなければならない
・空室が増え家賃収入が毎年下がっていくのに、ローンの支払いは税金は、当初のまま
★そのため、オーナーにとっては、年々家賃収入が減っていくにもかかわらず、税負担はそのままのため、大きな負担となってくる
賃貸物件のオーナー向けのリノベーションサービス「りのふる」を手掛ける当社も、ローン支払いに悩むオーナーから、相談されることがあるため、同じような状況だと思っています。
にも関わらず、貸家着工数は15%増
前述のように空室物件が増えている状況にも掛からず、貸家の着工数は増加しています。日本経済新聞(2016年7月4日付け)によると、2016年5月の伸び率について、持ち家が前年比4.3%にとどまるのに対し、アパートなど貸家が15%となったとのことです。その理由に関する、同紙の見解が興味深いので、紹介いたします。
〈アパートが伸びた理由は2つある。1つは団塊世代の相続対策だ。15年1月施行の税制改正を受け、相続税は非課税枠だった基礎控除の引き下げや税率構造が見直された。相続税制では現金よりも不動産の方が評価額が低くなり、賃貸に回すとさらに下がる。即効性のある節税策として、資産家がアパートに飛びついた面がある。
2つめは日銀のマイナス金利政策。利ざやが縮んだ銀行がアパートローンに活路を見いだそうとしている。拠点を置く自治体で人口減少が進む西日本のある地銀も「市内中心部で閉鎖した店舗や老朽化した建物の跡地をいかしたアパート建設を提案している」と話す。(前掲)〉
銀行のアパートローンの営業攻勢と、相続税の税制改正が、貸家着工数を増加させた要因なのです。
一方、貸家着工数の増加傾向に対して、警鐘を鳴らす専門家もいます。
〈問題は人口減少社会の日本で、アパート着工が適正水準かということだ。不動産動向に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの藤田隼平研究員は「すでに過熱気味のサインが出ている」と指摘する。
同社は人口動態や建築された住宅の数をもとに、長期にわたる適正な需要値を試算。足元の動きは、バブル経済期や08年のリーマン・ショック前と似通い、供給過多の傾向がみられるという。過去2回ともその後にやって来たのは急速な需要減。藤田氏は「今回もいずれ調整局面に入るリスクがある」とみている。
不気味に響くのが空き家の足取りだ。13年度時点で850万戸に達し、空室率は14%。このうち半分を賃貸が占める。日本不動産研究所の吉野薫氏は「地方では長期的な採算性が疑問の案件も増えている」と懸念する。(前掲)〉
さらに、同紙によると、アパート融資を増やす地銀を金融庁が警戒。行き場のないカネが、不動産に集まるリスクがあるとして、日銀からも懸念の声があると紹介しています。
アパートバブル到来!
前述のような、貸家バブルの到来が訪れているのでしょうか。ここでは、銀行のアパートローンの営業状況から、賃貸バブルの有無を見ていきたいと思います。
前述の日本経済新聞の記事は、金融機関のアパートローンの営業状況などについて説明しています。
まずは、横浜銀行が東日本銀行との経営統合を機に、2016年5月半ばに新設した立川支店では、6人の営業員が1カ月で200の個人宅を回り、4件のアパートローンを獲得したそうです。
横浜銀行といえば、地銀大手となるため、大きな動きでしょう。
さらに、同行は、住宅関連の貸し付け業務のうち、アパートローンの伸びが顕著だそう。〈2016年3月期は通常の住宅ローンが前期比1%減った一方、アパートローンは3%増。アパートは1軒で平均1億円弱の融資を見込め、貸出金利も1%弱と0.6%前後の住宅ローンより高い。アパートを含む資産家向け融資は18年度までの3年間で約4割増の2兆6500億円を目指している〉(前掲)とのことです。
アパートは鉄筋コンクリート製で、木造では少数。同ローンの対象は、農地を持て余している60歳超の資産家とのことです。
さらに、〈首都圏と同様に人口増が続く沖縄県でもアパートは好調だ。沖縄銀行は16年3月末までの1年間で不動産向け融資を377億円増やしたが、このうちアパートローンが200億円を占めた〉など、アパートローンは、銀行にとって大きな収益源となっているようです。
強気の積水ハウス
ここでは、賃貸住宅販売業者の動向を紹介していきます。まずは、積水ハウスにおいては、賃貸住宅の販売を2019年までにに3割増の年2000棟以上に引きあげるそう。
日本経済新聞(2016/07/16)によると、野村総合研究所の予測によると、2033年には空き家比率が30%に達する中、〈「1人世帯の増加などで今後も都心の住宅需要は増える」(積水ハウス、阿部俊則社長)〉とみているということ。
さらに、同紙によると、他社は都心の狭小土地向けの賃貸住宅に力を入れると紹介。〈旭化成ホームズは高いグレードを望む顧客に個別対応し、都心での実績で先行している。積水ハウスは自社のパネルの幅が一般製品の2分の1以下と小さく、設計の自由度が高い点などをアピールし、市場開拓を進める考え。(前掲)〉とのことでした。
積水ハウスの業績としては、〈賃貸住宅事業は16年1月期の営業利益が519億円で、初めて主力の戸建て住宅を上回る稼ぎ頭となった。今後3年で賃貸住宅事業の売上高を25%増の5千億円超に引き上げる考えだ。同社はグループ会社の積和不動産で、同社が建設した住宅の管理を担う「不動産フィー事業」も手掛ける。今回の高級アパートをけん引役に賃貸関連事業をさらに強化する〉としています。
将来の空室率の増加をよそに、各社とも賃貸住宅供給数を増やしていくのでしょうか。
おとり広告が、空室物件を増やしている!?
ここでは、不動産業者が関与している、契約済みや架空の物件情報を掲載する「おとり広告」を紹介します。このおとり広告が、空室を増やしている要因かもしれません。
この「おとり広告」の実態について取材をした朝日新聞の記事(2016年7月2日付)が参考になるので、紹介します。
同紙によると、東京豊島区の業者は、インターネット広告に5万7千円の賃貸物件を掲載。広告の掲載後に、顧客から192件の問い合わせがあったにもかかわらず、誰とも契約していなかったと紹介しています。
そのような中で、前述の業者を調査したの自主規制団体が、「おとり広告」にあたるとして、業者に厳重警告や違約金を課したそうです。
さらに、〈主要な不動産情報サイトを運営する5社が2015年度に確認したおとり広告の物件は2千件を超えた。首都圏の協議会では、ネット広告の不当表示で15年度は46件に厳重警告を出した〉(前掲)とのことで、おとり広告が横行していることがわかります。
これは、賃貸物件のオーナーにとっても、無関係ではありませんね。
さらに、〈3月の国会でも消費者問題を扱う委員会で「実効性のある取り締まりをすべきだ」との指摘があり、消費者庁は4月下旬、同連合会に書面で取り締まりの強化を要請した。首都圏の協議会の担当者は「おとり広告をやったら損をする環境をつくっていきたい」と話す〉(前掲)などです。
不動産のおとり広告は、景品表示法で禁止事項です。前述の同連合会のでは、同法に基づく自主ルールに沿って傘下の業者を取り締まっています。「広告を見て来店した客に契約済みと言えば、うそと分からないし、他の物件を紹介できる」(前掲)とした、同紙の記事を読むと、業界で横行していることがわかります。
これからの賃貸住宅の空室対策
前述の須田忠雄さん(株式会社やすらぎ社長)は、これからの賃貸住宅の空室対策として、付加価値を付けるリフォーム(リノベーション)を実施することが重要と指摘しています。
そこで、主な方法をご紹介いたします。
なお、下記は、須田さんの書籍「アパート経営はするな!」(大空出版)を、引用・要約しています。
①屋根をソーラーにしてエコ住宅にする
須田さんによると、下記のような賃貸物件オーナーが出てきているそうです(セキスイハイムのパンフレットに載っていたみたいです)。
・周囲に賃貸住宅が多いので、差別化のため太陽光発言搭載の賃貸住宅を選んだ
・光熱費を入居者に還元したら、あっという間に満室になった
→ 毎月2,000円分を還元
→ 実質的に家賃を2,000円分、安くしたのと同じとなる
・その後も問い合わせが絶えない
入居者の立場からすると、エコロジー住宅に住んでいるということで、自慢したくもなることでしょう。
②思い切って、ペット可能賃貸住宅にする
ある民間調査によれば、ペット可の賃貸物件は年々増え続けていて、都心エリアの賃貸物件に限ると、14.1%を占めるとのことです。
そのうえで、須田さんは下記のような見解を持っています。
・オーナーの中で、ペット禁止を貫いている人がいたら、見込みがある
・明日から「ペット可」・「ペット相談」に書き換えるだけで、入居希望者が増えるかもしれない
近年の猫ブームに便乗するのも有りかと思います。
④「2DK」を「1LDK」にする
部屋の間仕切りは、特に若い人たちにとっては、邪魔以外のなにものでもありません。
東京都の1世帯あたりの平均人数が1.99人となりました。そのため、築古の物件のように部屋数が多い物件よりも、一つの部屋が多い物件のほうが選ばれやすいとも考えられます。
⑤高齢者向け住宅にする
65歳の1人暮らし世帯数は、全世帯数の10分の1と言われています。
このため、単身用住宅における想定入居者層は、若者よりも、50〜60代の未婚男性や、連れ合いを亡くした高齢者だと言えるかもしれません。
ただ、「万が一なにかあったら」などと考えている貸主もいると思いますが、最近は高齢者の入居リスクを肩代わりする会社も出てきているため、一考の価値はあると思います。
一方で、高齢者向けとなると、部屋のデザインなどを高齢者向けにしなければならないためリスクとも言えます。例えば、フローリングを明るい色にしたり、クロスを派手な色にしたりしても、高齢者には受け付けられないかもしれません。
⑥ちょっとした付加価値を付ける
トイレをウォシュレット式に替える。これだけでも、入居候補者からの印象は断然良くなると言えます。
また、女性向けに防犯カメラをエントランス部に取り付けたり、周りに高い木を植えたりすることで、入居可能性が高まります。女性にとって防犯というのは、入居を考える上で大きな要素となりますからね。
また、入居者のメールアドレスを教えてもらい、誕生日などで、お祝いメールを送ることで、好感度が高くなるとも言えます(その時に、家賃の滞納や、近隣からのクレームが起きていることを、さりげなく伝えてみても良いかもしれません)
まとめ
以上、賃貸経営における最新事情をお伝えしました。賃貸経営においては、何かと暗い話題がある中で、読者様の参考に少しでもなれればと思っています。なお、本文の内容については、前述の須田忠雄さん(株式会社やすらぎ社長)の書籍「アパート経営はするな!」(大空出版)を参考に記載しています。